ブランディングの機運は「最初の一人」から始まる
- 執筆
- 大学ブランディング研究所 編集部
- 監修
- 上條 憲二
- 最終確認

本連載は、上條憲二先生(愛知東邦大学経営学部教授・日本ブランド経営学会会長)の「大学ブランディング講座」(全10回)を、コラムとして再構成したものです。前回は、大学ブランディングが進まない“温度差”とその背景にある壁を整理しました。今回は、その温度差をどう動かすか——「最初の一人」というキーワードから考えます。
大学のブランディングは、全学の合意を待っていると動き出しません。最初に動く一人がいるかどうかが分かれ目になります。最初の一人が何から始めるべきかを整理します。
「やれる人がやればいい」で止まらないために
ブランディングの意味がなんとなく分かってきた段階でも、学内ではまだ、こんな声が残ります。
- 「ブランディング、意味はなんとなく分かったけど…、ホントにやるの?」
- 「また新しい取り組みを始めるの?…毎度毎度なんだけど…」
- 「まあ、やれる人がやればいいかな…、とりあえず…」
関心はゼロではない。でも、自分ごとにはなっていない。この「とりあえず様子見」の空気を動かす鍵が、最初の一人の存在です。
自分が「最初の一人」になってみる
どんな企画にも、最初に発案した人が必ずいます。上條先生は「まず、自分がその人になってみては」と提案します。誰かが動き出すのを待つのではなく、自分が口火を切る。機運づくりは、そこから始まります。
上條先生がこれまで出会ってきた「最初の一人」には、いくつかの共通した特徴があるといいます。
- 楽しいことが好き/楽観的である
- 夢やビジョンを語りがち/仕事を面白がる
- 真面目である/勇気がある
- あえて「出る杭」になる志がある/やや目立ちたがりである
- 会社(組織)に何らかの問題意識を持ち、それを何とかしたいと思っている
- ひそかに勉強している/情報収集が好き
- 社内に何でも話せる人がいる/他の部署に知り合いがいる
- 役員や経営者など、キーパーソンとつながりがある
すべてを備えている必要はありません。「問題意識を何とかしたい」という思いと、それを口に出す少しの勇気。まずはそこからです。

まずは3人から、仲間を広げる
とはいえ、一人でできることには限りがあります。そこで次に大切なのが、仲間づくりです。上條先生が示すのは、いきなり全学を動かそうとするのではなく、まずは3人から共感者を増やしていくという進め方です。3人が動けば、その周囲に少しずつ波が広がっていく。小さな核から始めるのが、遠回りに見えて確かな道筋です。
共感が広がるしくみ ——イノベーター理論
この「共感がどう広がっていくか」を理解する手がかりになるのが、社会学者エベレット・M・ロジャーズが著書『イノベーション普及学』で示したイノベーター理論です。新しいものが世の中に受け入れられていく過程を、採用の早さによって5つのタイプに分類したものです。
- イノベーター(革新者・約2.5%):情報感度が高く、新しいものが好きで、コストを惜しまず積極的に採用する。
- アーリーアダプター(初期採用者・約13.5%):世間や業界のトレンドに敏感で、オピニオンリーダーとして口コミに大きな影響を与える。
- アーリーマジョリティ(前期追随者・約34%):新しいものに慎重だが、アーリーアダプターの影響を受けて採用する。市場全体への浸透の橋渡し役。
- レイトマジョリティ(後期追随者・約34%):保守的で、周囲が使っているのを見てから採用する。
- ラガード(遅滞者・約16%):懐疑的で、最後の最後に採用する。
この理論をブランディングの機運づくりに当てはめると、見通しが立てやすくなります。最初に動く「最初の一人」はイノベーターにあたり、続いて共感するアーリーアダプターが仲間になる。この層が動き出すと、慎重だったアーリーマジョリティへと波及していく。全員を一度に説得しようとするのではなく、まず動く2.5%、次に13.5%へと、順に共感の輪を広げていくわけです。
一人の参加が、組織を動かした例
「最初の一人」が組織を動かした例は、企業の世界にもあります。次は、社名を伏せた企業事例です。
ある企業では、一人の管理職がブランドセミナーに参加したことがきっかけでした。「企業を成長させるのにブランディングという手法があるのか」と気づき、自分なりに会社のブランド戦略を立ててみた。それを経営者に提案したところ、「やってみなさい」と後押しを受け、ブランド戦略を推進。現在では業界のトップに立っています。
別の企業では、一人の一般社員が大学のブランドセミナーに参加したことが起点でした。「企業の価値を判断するのにブランド価値という考え方があるのか」と関心を持ち、上司に「ウチの会社のブランド価値を調べてみませんか」と持ちかけた。そこから勉強会が始まり、本格的にブランディングを考えるようになり、やがて業界有数のメーカーへと成長したといいます。
いずれも、始まりはたった一人の関心でした。役職の高さは関係ありません。「最初の一人」になり、3人の仲間をつくり、共感を広げていく。この積み重ねが、学内の温度差を溶かしていきます。次回は、その機運づくりをさらに後押しする「ファクト(事実)」の力について取り上げます。
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- 「誰かやっておいて」— 進まない“温度差”の正体:前回。動かない理由を4つの壁で
- 第2回「機運をつくる」アーカイブ:本稿の元になった講座
よくある質問
Q. 「最初の一人」は、役職が高くないと務まりませんか?
関係ありません。本文で挙げた2つの例は、一人の管理職と、一人の一般社員が起点でした。必要なのは、おかしいと思ったことを口に出す少しの勇気です。
Q. なぜ全学を一度に説得しようとしてはいけないのですか?
新しいものを早い段階で受け入れる層は、全体の2.5%と13.5%です(イノベーター理論)。ここを飛ばして多数派に当たると、慎重な層の反応がそのまま「反対多数」として返ってきます。
Q. 仲間ができたら、次は何をすればよいですか?
事実で学内に問題提起する段階です。簡易調査の始め方はファクトで一石を投じるで扱っています。
