ファクトで一石を投じる — 機運づくりの簡易調査
- 執筆
- 大学ブランディング研究所 編集部
- 監修
- 上條 憲二
- 最終確認

本連載は、上條憲二先生(愛知東邦大学経営学部教授・日本ブランド経営学会会長)の「大学ブランディング講座」(全10回)を、コラムとして再構成したものです。ここまで、大学ブランディングが進まない“温度差”と、それを動かす「最初の一人」について見てきました。今回は、機運づくりを一気に前へ進める道具——ファクト(事実)の力を取り上げます。
「うちの大学はこう見られているはずだ」という思い込みから始めると、施策は空振りします。事実から始める——公開情報と実データで現在地を確かめることの重要性を整理します。
「知らなかった」が人を動かす
「私たちの大学、実は、こう思われているんだ。知らなかった」
ブランディングの機運づくりで大きな転機になるのが、こうした気づきの瞬間です。抽象的な議論をいくら重ねても学内はなかなか動きませんが、自分たちに関する具体的な事実を突きつけられると、話は変わります。まず事実に基づいて問題を提起する。ファクトは内部を動かす第一歩です。静かな水面に一石を投じ、波紋を広げていくイメージです。
本格調査の前に、まずは「簡易調査」から
ここで役立つのが、きっかけづくりのための簡易調査です。統計的に厳密な本格調査ではなく、ブランドについて考えるための簡単な調査で十分です。まずは教員、職員、在学生といった、身近な人たちに聞いてみることから始めます。
聞く項目は、次のようなものが基本になります。
- 学園のイメージ(現在のイメージ vs ありたいイメージ)
- 学園の強み、弱み
- 満足度、推奨度
Google フォームのような無料ツールを使えば、コストをかけずにすぐ始められます。とりあえずでもいいので、学園のだいたいの傾向をつかんでみる。この「まず動いてみる」ことに意味があります。
見えてくる「イメージのギャップ」
簡易調査を通して浮かび上がってくるのが、「現状のイメージ」と「ありたいイメージ」のギャップです。
いま自分たちの大学がどう見られているか。そして、本当はどう見られたいのか。この2つは、多くの場合、ぴったりとは重なりません。重ならない部分。つまり、ギャップこそが、これから埋めていくべき課題であり、ブランディングの出発点になります。
あわせて、次のような視点で結果を眺めると、議論が深まります。
- ターゲットで共通していること
- ターゲットごとで異なっていること
- 「現状のイメージ」と「ありたいイメージ」のギャップ
受験生、保護者、在学生、教職員——それぞれの見え方の共通点と相違点を並べてみると、これまで漠然としていた「自分たちの立ち位置」が、輪郭を持って見えてきます。「どんなイメージにしたいか」を教職員に問いかけていくプロセスそのものが、当事者意識を育てていきます。
「独り歩きする企画書」をつくる
調査でファクトが集まったら、次のひと押しになるのが企画書の自主提案です。
できれば、自分なりに「ブランディングの企画書」を作り、それをいろいろなところで説明してみる。すると、こんな声が広がっていきます。
- 「あの企画書、読みました?」
- 「なんか、面白そうですね…」
上條先生は、こう振り返ります。「最初の一人(人たち)」が書いた企画書を読んだことがある。もちろん精緻なものではなかったが、自分たちの会社や商品をブランド化するという論旨が明快だった。企画書が人から人へと伝わり、いわば独り歩きしていく。作り手の手を離れて、関心の輪を広げていく。これが機運づくりの理想的な広がり方です。
タイミングを逃さず、発表する
集めたファクトや作った企画書は、しまい込まず、機会をとらえて外に出していくことが大切です。
- チームミーティング
- ブランディング講演会(対面・オンライン)/全学集会、FD・SD研修会
- キーパーソン限定イベント
こうした場のタイミングをとらえて、勉強会や調査の成果を発表していく。ファクトという“具体”を携えて語りかけることで、「とりあえず様子見」だった空気が、少しずつ「自分たちごと」へと変わっていきます。
温度差に気づき、最初の一人が動き、仲間を広げ、ファクトで一石を投じる。ここまでが「機運をつくる」段階の全体像です。機運が整えば、いよいよブランディングを推進する組織づくりへと進んでいきます。その具体的な方法は、次回以降のテーマです。
あわせて読む
- 機運は「最初の一人」から始まる:前回。仲間を3人からつくる
- 第3回「ブランディング推進組織をつくる」:機運が整ったあとの体制づくり。全編を公開しています
- 全国の大学 建学の精神・理念 一覧:他大学の理念を出典つきで読み比べられます
よくある質問
Q. 調査は、統計的に厳密でなくてよいのですか?
機運づくりの段階では十分です。目的は正確な数字を出すことではなく、「知らなかった」という気づきを学内に起こすことにあります。厳密な調査は、方向が決まってからで間に合います。
Q. 何を聞けばよいですか?
学園のイメージ(現在のイメージと、ありたいイメージ)、強みと弱み、満足度・推奨度の3つが基本です。まずは教員・職員・在学生から始めます。
Q. 調査結果を出したのに、学内が動きません。
数字を配るだけでは動きません。現状のイメージとありたいイメージのどこがずれているかまで示したうえで、全学集会やFD・SD研修など人が集まる場でぶつけるところまでが一組です。
