なぜ今、大学に「ブランド」が必要なのか

コラム

大学ブランディング講座 第1回 基本編 なぜ今、大学に「ブランド」が必要なのか

本連載は、ブランドコンサルタントの上條憲二先生による「大学ブランディング講座」(全10回)を、コラムとして再構成したものです。第1回では、そもそもなぜ今、大学に「ブランド」という視点が必要になっているのかを整理します。

結論から述べます。「教育の中身が良ければ、いずれ伝わるはず」という考え方は、もう通用しなくなりつつあります。中身の良さは前提であって、それだけでは選ばれない。ここに、多くの大学が直面している難しさがあります。

大学経営は「嵐の中」にある

18歳人口の減少に伴い、「大学全入時代」が本格化しています。私立大学では定員割れを起こす大学が増え、経営環境は年々厳しさを増しています。文部科学省の資料などでも、定員管理の厳格化や大学の統廃合が進んでいることが示されています。

この状況を、上條先生は「大学経営、今、嵐の中です」と表現します。少子化という構造的な逆風のなかで、多くの大学が「このままでは定員割れが常態化し、数年後に法人の収支が危うくなる」という危機感を抱いています。

現場で起きている「かみ合わなさ」

危機感はあるのに、なかなか動けない。講座では、大学の教職員が抱える典型的な悩みが紹介されています。たとえば、次のような声です。

  • 定員確保が厳しく、広告やイベントといった短期的な施策に頼らざるを得ない現状に疲弊している
  • 大学としての存在意義を深掘りしたいが、どこから手をつければよいかわからない
  • 学内に変革の必要性を訴えても、学部・学科ごとの利害や温度差が大きく、動かしづらい
  • 広報物をつくっても「どこかで見たような内容」になってしまう
  • 「この大学を選ぶ理由」を高校生にうまく伝えられない

ある地方大学の理事長は、「教育の中身が良ければ伝わるはずだ」という考え方が通用しなくなっていることを痛感しつつ、これまで改革に着手しても学内の合意形成が難航し、挫折した経験があると語られています。学長クラスでも、「教育の中身に自信はあるが、それが外から“魅力”として見えない」「学内の一体感がない」といった悩みは共通しています。

つまり、問題は「良いものがない」ことではありません。良いものがあるのに、それが伝わっていない。バラバラに動いていて、一つの評判として積み上がっていない。ここに難しさの本質があります。

「ブランディングでなんとかならないか」の落とし穴

こうしたなかで、「ブランディングでなんとかならないか」という声が上がります。これは自然な発想です。ただし、ここで一つ注意すべき点があります。

上層部が「ブランド=イメージ戦略」だと捉えていたり、「ブランディング=ロゴやデザインの刷新」だと考えていたりするケースが少なくありません。しかし、ロゴを新しくすれば学生が集まるほど、話は単純ではありません。もしそれで解決するなら、どの大学も苦労はしないはずです。

この講座が扱う「ブランディング」は、イメージづくりや広告の話ではなく、大学が「自分たちらしく」生き残るための経営手法です。これまで企業に対して行われてきたブランディングの考え方を、大学にあてはめたものだと考えてください。

「らしさ」で選ばれる大学へ

少子化のなかで生き残るために必要なのは、他大学と横並びの広報を続けることではありません。その大学ならではの価値、いわば「らしさ」を明確にし、それを軸にあらゆる活動を一貫させていくことです。上條先生はこれを「“らしさ”によって選ばれる存在になること」と定義しています。

「広告ではなく、“選ばれる大学”になるための地力をつけたい」。これは、ある学長が語った言葉です。この地力こそが、ブランドにほかなりません。

では、そもそも「ブランド」とは何なのか。高級品のことでも、ロゴのことでも、大企業だけのものでもありません。次回は、この講座の核心である「ブランドとは何か」を掘り下げていきます。