関西学院大学が、100年前の理念を訳し直した理由
- 執筆
- 大学ブランディング研究所 編集部
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大学の理念は、長く使われているほど、よく伝わっているように見えます。
関西学院の「Mastery for Service」も、そんな言葉の一つでしょう。大学はこれを「奉仕のための練達」と表し、社会に貢献するために実力を身につける、という意味で説明しています。関西学院大学「理念・目的」
ところが、大学ブランディング研究所編集部が公式資料を読んでいくと、少し意外な記録がありました。関西学院は2011年、このモットーの意味を説いた古い英文を、新たに日本語へ訳し直していたのです。
何が伝わらなくなっていたのでしょうか。
大切な言葉にも、読まれなくなる理由がある
訳し直したのは、提唱者C.J.L.ベーツが1915年に発表した論説です。関西学院が公表した新訳の説明には、旧訳の問題が具体的に記されています。原文の重要な箇所に省略があり、表現も難しかったそうです。男子校時代の呼びかけへの違和感や、職業差別があるという誤解も生じ、文章に触れる機会が減っていたといいます。
作業には英語だけでなく、歴史やキリスト教の専門家も関わりました。教職員から意見を募り、新訳を完成させています。関西学院「新訳について」
この経緯を読むと、長く続く理念への見方が変わります。
同じ言葉を掲げ続けても、それを読む人は入れ替わります。以前なら説明が要らなかった表現に、新しい世代が立ち止まることもあるでしょう。関西学院の記録には、その行き違いを具体的に調べ、説明を整え直した仕事が残っていました。
大学広報にとっても気になる話です。学内では聞き慣れた言葉ほど、初めて読む人がどこでつまずくか、見落としやすいからです。
「誰かのために」と考えたとき、何を学ぶのか
では、いま関西学院の教育を見ていくと、このモットーはどんな形で読めるでしょうか。
大学の理念・目的には、知識や技能に加えて、課題を見つけ、解決し、実行する力を育てるという目標があります。他者のために力を用いるという考えが、身につける能力の説明まで続いています。関西学院大学「理念・目的」
その意味を考える手がかりになるのが、ハンズオン・ラーニングの授業案内です。
たとえば、瀬戸内海の豊島を訪ねる「社会探究実習」。学生はインタビューを通じて自分のテーマを追うとともに、島の人たちから出されたテーマにグループで取り組みます。別の科目「ハンズオン・キャンプ」では、学生が用意した企画を受け入れ先と検討し、現地でも更新しながら、実行できるものを試していきます。関西学院大学「ハンズオン・ラーニング・プログラム」
編集部として興味を持ったのは、学生の考えに、相手が応答する余地があることでした。
自分では役立つと思っていた案が、相手にとっても必要なのか。話を聞いてみて、問いの立て方から変える必要はないか。「社会貢献」という大きな言葉を、こうしたやり取りまで下ろして読むと、そこで学ぶ難しさが想像できます。
授業案内だけで学生の成長までは分かりません。ただ、何を経験させようとしているのかは見えます。受験生に教育を説明するときにも、この具体性は役立つはずです。訪問先や連携先の名前に、そこで学生が考え直す過程を添えてみる。その方が、授業を受ける自分を思い描きやすくなります。
卒業してからも、一人ずつ答えが違う
関西学院には、モットーを卒業生の言葉や生き方から紹介する「Mastery for Service」というサイトもあります。その入口に置かれているのは、「あなたにとっての」という問いかけです。関西学院「Mastery for Service」
ここにも、理念を伝える際の選択が見えます。
説明文を読めば意味が分かります。その先で、仕事や暮らしの中ではどう受け止めるのかを、一人ひとりの言葉に委ねています。公式サイトが選んだ卒業生の姿ではあるけれど、理念を自分の生活に引き寄せて考える入口にはなります。
新訳づくりと卒業生サイトには、モットーをどう伝えるかという仕事が記されています。一方、授業案内が説明するのは、現場に触れながら問いを立て、考える力を鍛える学びです。相手の出したテーマに取り組み、受け入れ先と企画を検討する場面を読むと、他者のために力を用いるという理念を、学生自身が考える手がかりにもなります。言葉の説明と、教育の場面。その両方を行き来することで、モットーへの理解を深められます。
自分の大学の理念を発信するときも、まず、初めて読む人にどこまで意味が届くかを確かめたいと思います。聞き慣れない言葉の説明や、授業の具体的な場面が一つ加わるだけで、理解が進むことはあります。
関西学院の新訳づくりは、長く大切にしてきた理念にも、伝えるための手入れが要ることを教えてくれます。
