コラム

大学の内部質保証とは?自己点検で見つかった課題の、その後を追う

執筆
大学ブランディング研究所 編集部
最終更新日
大学の継続改善を回す四つの要素の循環図

大学の内部質保証は、教育の目標と成果を確かめ、課題を判断し、改善し、その改善が効いたかを再び検証する仕組みです。自己点検で見つけた課題に担当、期限、変更内容を定め、授業や支援の改善へつなげます。

内部質保証は、教育を継続的に見直す仕組み

学校教育法第109条は、大学に教育研究等の状況について自ら点検・評価し、その結果を公表することを求めています。さらに、政令で定める期間ごとに認証評価機関の評価を受けることを定めています。内部質保証は、この自己点検を一度の報告で終わらせず、大学自身の責任で改革・改善へつなぎ、教育の質を継続的に保証する考え方です。

「保証」は、課題が存在しないという意味ではありません。目標に対する達成状況と未達を同じ基準で説明し、課題の責任者、対応、期限、再確認の方法を決められる状態です。課題を公開・共有し、改善の履歴を残せる組織の方が、問題を隠して「適切」とだけ書く組織より、質保証の仕組みを説明できます。

自己点検・内部質保証・認証評価の役割を混同しない

取組 主な主体 中心となる問い
自己点検・評価 大学 目標に対して現状と課題はどうなっているか
内部質保証 大学 点検結果を誰が改善へつなぎ、効果を再確認するか
認証評価 認証評価機関 大学の教育研究、法令適合、内部質保証が機能しているか

認証評価は外部からの定期的な確認ですが、内部質保証の日常運営を代わりに行うものではありません。大学改革支援・学位授与機構の大学機関別認証評価でも、内部質保証に係る体制や手順が整い、実際に機能しているかが重要な評価対象になります。評価前だけ資料を集める運用では、外部説明には対応できても、毎年度の教育改善は進みません。

データ収集より先に「何を判断するか」を決める

取得できるデータから集め始めると、判断に使わない表まで増えることがあります。まず教育上の問いを定め、その判断に必要な証拠、比較単位、時期、判断者を決めます。

教育上の問い 組み合わせる証拠の例 判断の例
初年次教育は学修の土台を作れているか 共通課題、単位修得、学修時間、学生面談 科目内容、クラス規模、支援時期を見直す
DPの力は卒業時に身に付いたか 卒業研究ルーブリック、実習、学生自己評価 科目の役割、評価基準、統合科目を見直す
入学者選抜と教育は接続しているか 選抜区分、初年次成果、進級、休退学 AP、選抜方法、入学後支援を見直す

平均値だけでは、特定の学部、入学年度、学生群で起きている課題が消える場合があります。一方、細分化し過ぎると少人数から個人が推測されたり、偶然の変動を意味ある差と誤認したりします。比較単位、最小人数、閲覧権限、公表範囲を先に決める必要があります。

IRは判断材料を作る。改善責任は教学組織が持つ

IR部門は、データの定義を揃え、複数システムから情報を結び、傾向や差を可視化できます。しかし「退学率が上がった」という結果から、カリキュラムを変えるのか、履修支援を変えるのか、経済支援を強化するのかを決めるには、教育現場と学生の事情を踏まえた判断が必要です。

一例として、IRが分析を支援し、教学組織が教育上の判断を担い、学部・科目担当が改善し、再びIRと教学組織が結果を確かめる分担があります。組織名称と権限は大学によって異なりますが、分析担当へ改善まで丸投げすると、データは増えても教育が動きません。逆に、現場の経験だけで判断すれば、全体傾向や意図しない格差を見落とします。

公開事例は「指標」より「結果の使い道」を読む

札幌大学は、大学全体、教育課程、授業科目の各レベルで学修成果を把握・可視化し、検証・改善するためのアセスメントプランを公開しています。近畿大学は、卒業研究ルーブリックなどについて対象、時期、実施部署、結果の活用方法まで示しています。武蔵野大学も、三つのポリシーに基づき、機関・教育課程・科目の三段階で測定・評価し、改善へつなげる方針を公開しています。

三大学の資料が示す細かさは同じではありません。札幌大学と武蔵野大学は、大学全体・教育課程・科目という単位ごとに評価する内容を分けています。近畿大学の表では、卒業アンケートの結果をIR・教育支援センターが教学運営会議へ報告し、カリキュラム改善などへ活用する経路まで読めます。指標を借りる前に、結果がどこへ届く設計かを読む。自校で使うなら、その受け手と、改善を判断する人も決める必要があります。

形骸化は、記録の有無ではなく「閉じていない輪」に表れる

  • 毎年同じ課題が記載されていますが、未実施の理由と次の判断がありません。
  • 会議資料は多くても、決定事項、担当、期限、再確認日が残っていません。
  • 学部の自己点検項目が、全学方針やDPと対応していません。
  • 授業アンケートを回収しても、学生へ結果と改善内容を返していません。
  • 数値目標を達成したかだけを見て、教育内容の質や副作用を検討していません。
  • 認証評価の前年だけ、過去の資料を遡って集めています。

対策はPDCAという語を増やすことではありません。改善案件ごとに「課題の根拠」「決定」「担当」「期限」「変更内容」「再検証指標」を一行で追える台帳を持ち、次年度に未完了案件から確認します。実施できなかった場合も、理由と再判断を残せば学習になります。

改善案件には終了条件が必要です。「研修を実施した」「会議で周知した」は活動の完了であって、教育上の課題が解消した証拠ではありません。たとえば初年次科目の未修得を課題としたなら、教材改訂や研修の実施後に、同じ定義で未修得状況と学修成果を再確認します。改善が効かなければ仮説を変え、効果があっても別の学生群へ不利益が出ていないかを見ます。

すべての案件を同じ頻度で点検する必要もありません。法令、学生の安全、学位の水準に関わる問題は即時に扱い、カリキュラム改訂の成果は学生が科目を履修する期間を踏まえて確認します。年度末に一律で閉じるのではなく、課題の性質に応じた期限と再検証時点を定めます。

次の自己点検では、前回の課題を一つ取り上げ、その後に何が変わったかをたどります。担当を決めた、会議で伝えた、という記録の先に、授業や支援を変更した記録があるか。さらに、その変更を確かめる時期が決まっているか。内部質保証を説明する材料は、その一連の仕事の中にあります。

出典

制度・公開資料の確認基準日は2026年8月17日です。