ディプロマ・ポリシーとは?3つのポリシーの起点と見直し方
- 執筆
- 大学ブランディング研究所 編集部
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必要な単位を取得すれば、ディプロマ・ポリシー(DP)に掲げた力を身に付けたと言えるのでしょうか。単位数は卒業要件を満たしたことを示しますが、卒業時にどの知識・技能・態度を確認したかまでは説明しません。DPは、大学がどのような学修成果を備えた者に卒業を認定し、学位を授与するかを示す方針です。
DPは、大学が卒業生について負う教育上の約束
学校教育法施行規則第165条の2は、大学が教育上の目的を踏まえて、卒業認定に関する方針、教育課程の編成・実施に関する方針、入学者受入れに関する方針を定めるよう求めています。文部科学省のガイドラインは、DPを、どのような力を身に付けた者に卒業を認定し、学位を授与するかを定める基本方針であり、学生の学修成果の目標となるものと整理しています。
ここでの「保証」は、全卒業生が同じ人物になるという意味ではありません。学位プログラムとして最低限備えるべき知識、技能、思考、態度などを明らかにし、大学が卒業認定の根拠を説明するための考え方です。学生の個性や進路は多様でも、授与する学位に共通する学修成果は説明できなければなりません。
卒業要件とDPは役割が異なる
| 項目 | 主に示すこと | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 卒業要件 | 必要単位数、必修科目、在学期間など | 学則、履修要項 |
| DP | 卒業時に身に付ける学修成果 | 卒業認定・学位授与の方針 |
| 成績評価 | 個々の授業の到達目標をどの程度達成したか | シラバス、試験、ルーブリック |
| DPの達成状況を確かめる取組 | 複数科目を通じた総合的な学修成果 | 卒業研究、実習、ポートフォリオ等。名称と方法は大学により異なる |
必要単位を取得した事実は重要ですが、それだけでは「どの力が身に付いたか」の説明になりません。反対に、DPに多くの能力を書いても、それが必修科目や卒業研究などを通じて全卒業生に確認されなければ、学位授与の基準としては弱くなります。卒業要件とDPをつなぐのが、カリキュラム・ポリシー、科目の到達目標、評価の仕組みです。
卒業時の成果は、一つの数字ではなく複数の証拠から読む
| 証拠 | 分かること | 限界 |
|---|---|---|
| 授業成績・GPA | 科目ごとの到達状況、履修の推移 | 科目・担当者間の基準差、能力別の説明が難しい |
| 卒業研究・制作・実習 | 知識を統合して使う力 | 分野差があり、共通基準の設計が必要 |
| 共通試験・外部試験 | 一定条件での比較 | DP全体を測れるとは限らない |
| 学生の自己評価・調査 | 成長認識、学修行動、経験 | 実際にできることとは一致しない場合がある |
| 卒業後調査・雇用者意見 | 卒業後の活用、社会からの見え方 | 回答者偏りや教育との因果を扱いにくい |
福島大学食農学類の2026年度入学者用学修案内(100〜101頁)は、学年末のラーニング・ポートフォリオの入力と面談、学生によるルーブリックでの自己評価を示しています。最終的なDP達成度は、4年次のポートフォリオと卒業論文で評価すると説明しています。近畿大学の学士課程アセスメントプランは、直接評価と間接評価を区別し、卒業研究ルーブリックなどの結果を教育改善へ用いる責任部署と時期を示しています。いずれも、DPを読む文章から判断の仕組みへ移す例です。
一つの指標だけでDPを判定しないことが重要です。たとえば学生の自己評価が高く卒業研究評価が低い場合は、まず同じ力を、同じ時点・基準で見ているかを確かめます。質問が学生生活全体の成長を尋ね、卒業研究では専門的な分析力だけを評価しているなら、点差をそのまま過大な自己評価とは読めません。対象が対応して初めて、自己認識と成果物の評価の違いを検討できます。複数の証拠が一致しないこと自体が、教育や評価を見直す材料になります。
良いDPは「測りやすい言葉」ではなく「証拠を考えられる言葉」になっている
「豊かな人間性」「高い倫理観」「社会に貢献する力」は、教育理念として重要でも、そのままでは達成を判定しにくい表現です。一方、測定しやすさを優先して、複雑な学びを細かなチェック項目へ分解し過ぎれば、教育目標の意味が失われます。
実務では、抽象概念を捨てるのではなく、観察可能な行動や成果へ一段翻訳します。以下は編集部による表現例です。「倫理観」なら、専門分野の判断で利害関係者とリスクを特定し、根拠を示して選択を説明できること。「社会貢献」なら、社会課題を分析し、専門知識を用いた提案や実践を行い、その限界を説明できることが考えられます。
- 対象:何について理解・判断・実行するのか。
- 行動:説明する、分析する、設計する、協働するなど、何ができるのか。
- 条件:どの場面、どの水準、どの責任の下で行うのか。
- 証拠:論文、作品、実習、試験、発表など、何から確かめるのか。
すべてのDP項目を単一の数値にする必要はありません。重要なのは、学生と教員が到達の意味を共有でき、大学が判断根拠を示せることです。
DPからCP、授業、評価へ下ろす
DPを起点に、CPで卒業時の成果を育てる科目群、順序、教育方法、評価を決め、APでその教育を始めるために入学時点で求める力を示します。ただし一方向に決めて終わるのではありません。教育と評価の結果からDPの具体性や水準も問い直し、三つの方針を往復して見直します。
北海道教育大学は、課程等ごとのDP・CP・APに加え、カリキュラムマップとカリキュラムツリーを公開しています。こうした資料を使う目的は、DPと科目の対応を見せることだけではありません。あるDP項目に対応する科目が表に見当たらないとき、科目群や選択経路、卒業研究を含めて到達を確かめる仕組みがあるかを調べるためです。必修科目が一つに定まっていなくても、複数の経路で同じ学修成果を確かめる設計はあり得ます。履修要項と評価資料までたどって、表示の省略と設計上の空白を区別します。
個々の授業でも、到達目標と評価方法がDPへの役割に合っている必要があります。協働して課題を解決する力をDPに置きながら、全科目が個人の筆記試験だけで終わるなら、教育と評価にずれがあります。DPは公開ページにあるだけでなく、シラバス、授業設計、成績評価へ届いて初めて機能します。
DPの固有性は、能力名より教育上の選択に表れる
DPに「社会」「専門」「知識」「貢献」などの語が重なること自体は不自然ではありません。高等教育が担う基本的な成果には共通部分があるからです。差を作ろうとして奇抜な能力名を付けても、教育や評価が伴わなければ固有性は生まれません。
大学らしさが表れるのは、理念をどの能力へ翻訳し、限られた教育課程で何を全員へ経験させ、どの成果物を卒業の証拠として重視するかという選択です。DPの言葉と卒業研究、実習、作品、地域活動などの事実がつながると、大学の約束は広告表現ではなく教育の実体として伝わります。
DPの一項目を選んで、卒業研究や実習のどの成果から確かめるかを教員同士で話してみます。学生の自己評価と成果物の評価が違えば、その差も検討材料になります。大学が掲げた力を、何によって卒業時に確かめるのか。単位数とは別に、その根拠を説明できるようにするのがDPを読む目的です。
出典
- e-Gov法令検索「学校教育法施行規則」
- 文部科学省「三つのポリシーの策定及び運用に関するガイドライン」
- 文部科学省「教学マネジメント指針」
- 北海道教育大学「教育における三つの方針、カリキュラムマップ、カリキュラムツリー」
- 福島大学食農学類「2026年度入学者用学修案内」100〜101頁
- 近畿大学「学士課程アセスメントプラン」
制度説明の確認基準日は2026年8月17日です。福島大学の事例は2026年9月16日に、2026年度入学者用学修案内で再確認しました。
