コラム

大学広報誌の作り方|役割、企画、紙とWebの分担、KPIを解説

執筆
大学ブランディング研究所 編集部
最終更新日
大学広報誌を紙とWebで届ける資産にする図

大学広報誌を刷新するときは、まず、この一冊を誰が、どんな場面で手に取り、大学について何を理解できるようにするかを決めます。その後に表紙案やページ数を設計します。各部局から届いた原稿を公平に並べるだけでは、大学の組織図は見えても、読者が読み進める理由は生まれません。

企画会議で先に決めること

  • 今号の優先読者と、読前・読後で変えたい理解を言葉にします。
  • 紙、PDF、HTMLを同じ内容の三形式にせず、発見、保存、検索、更新、共有の役割を分けます。
  • 発行部数ではなく、閲読、理解、次の行動、学内での再利用まで追います。

「大学広報誌」という一語には異なる媒体が混在する

東京大学は、学内の出来事や方針を扱う「学内広報」と、大学の教育研究を特集で社会へ伝える「淡青」を分けています。順天堂大学の「順天堂だより」は、教職員、在学生の保護者、希望する同窓生・元教職員を配布先として示しています。名古屋市立大学は、一般向け広報誌、大学概要、受験生向け大学案内、データブックなどを別の刊行物として整理しています。

これらはすべて大学が発行する冊子ですが、読者が違えば、読む理由も、必要な情報も、評価方法も違います。「広報誌を刷新する」という依頼を受けたら、まず現行媒体が学報、大学案内、研究広報、卒業生コミュニケーションのどれを担っているかを確かめます。複数の役割を持たせる場合も、優先順位を決めないと、全員に少しずつ関係し、誰にも必要とされない冊子になります。

大学案内、学報、一般向け広報誌を分けて考える

媒体 主な読者 読者がしたい判断 適した内容
大学案内 高校生、保護者、高校教員 進学先として自分に合うか 学び、学生生活、費用、支援、入試
学報・学内広報 学生、教職員 何が決まり、どう参加するか 方針、制度、活動、学内の対話
一般向け広報誌 卒業生、地域、企業、一般 大学と自分にどんな接点があるか 教育研究の意味、人物、社会との関係
研究広報誌 企業、研究者、報道、一般 研究の価値や連携可能性は何か 問い、方法、成果、限界、研究者情報
Webニュース 目的を持って検索する人 今起きたことと詳細を確認する 速報、一次資料、更新情報

組織内の公平を優先して全学部を同じページ数で載せると、読者の関心より組織図が誌面を決めます。広報誌には、大学の全活動を網羅する役割はありません。網羅的な情報は公式サイトやデータブックに置き、広報誌は、今読む意味のある論点を選び、複数の活動を一つの視点で結ぶ方が向いています。

企画書に必要なのは特集名より六つの判断

  1. 優先読者:卒業生、保護者、地域、企業など、今号で最も重視する相手。
  2. 読前の状態:その相手が現在知らないこと、誤解していること、判断に迷っていること。
  3. 読後の状態:大学の何を説明でき、次に何を選べるようにするか。
  4. 中心となる問い:周年や新学部という大学側の出来事を、読者に意味のある問いへ変換したもの。
  5. 証拠:授業、研究方法、制度、学生や地域の経験、データ、成果と未達。
  6. 次の接点:Webの一次資料、イベント、寄付、共同研究、学内参加などの導線。

たとえば新学部を特集するなら、学部長の理念と施設写真だけでは、既存学部との違いも社会的な必要性も判断できません。「どんな課題に対し、どの専門を組み合わせ、学生は何を経験し、卒業時に何をできるようにするのか」を中心に据えます。設置構想と実績を混同せず、開始前なら目標と検証方法を、開始後なら学生の履修や成果、改善点を示します。

原稿を集める前に、編集部が取材設計をつくる

部局へ「800字で活動を紹介してください」と依頼すると、挨拶、沿革、成果の列挙が返りやすくなります。専門家が書いた正確な原稿でも、初めて読む人に必要な背景や具体例が抜けることがあります。編集部は、事実確認を部局へ丸投げせず、読者に必要な順序へ編集する責任を持ちます。

取材では、少なくとも次を確認します。何を課題として始めたのか。誰が参加し、何を行ったのか。従来と何が違うのか。確認できた成果は何か。まだ分からないことは何か。読者はどこで詳細を確認できるか。人物記事なら、肩書きや美談だけでなく、具体的な判断、失敗、修正、周囲との役割分担を聞きます。研究記事なら、社会的意義だけでなく、方法と検証範囲、研究段階を説明します。

寄稿原稿を大きく編集する場合は、事実、発言の趣旨、公開範囲を本人と確認します。一方、すべての言い回しを部局の原文どおりに残すと、号全体の読みやすさと一貫性が崩れます。事実の責任と編集の責任を分け、校正の往復回数、確認期限、最終決定者を制作開始前に定めます。

紙、PDF、HTMLは役割で使い分ける

形式 強み 弱み 担わせる役割
偶然の出会い、回覧、保存、まとまった読書体験 更新・検索・計測が難しい 特集の世界観、手元に残す要約
PDF 版面を保った配布、記録 スマートフォンで読みにくく、記事単位で見つけにくい 発行物の保存、印刷用データ
HTML 検索、共有、更新、アクセシビリティ、関連情報への接続 号全体のまとまりが弱くなりやすい 記事全文、データ、一次資料、継続更新

紙面をそのままPDFにして公開するだけでは、Web化とは言えません。特集の要点を紙で届け、記事ごとのHTMLで全文と一次資料を公開し、QRコードや短いURLでつなぐ方法があります。反対に、Web記事を紙面へ詰め込むだけでも、紙の見開きやページをめくる体験を生かせません。大阪大学がニュースレター、刊行物、動画などを広報メディアとして整理しているように、媒体数ではなく役割の分担を設計します。

誌面設計は「休ませる」ためでなく、理解の順序をつくる

写真や図版は文字量を減らす装飾ではありません。キャンパスのイメージ写真を大きく置いても、本文の理解に必要な情報が増えなければ、見た目の間を埋めただけです。授業の流れ、研究対象と方法、制度の新旧比較、関係者の役割、時系列など、文章より図の方が関係を把握しやすい場面で使います。

人物写真は、取材対象と記事の内容を結びつけるときに有効です。ストックフォトを大学固有の活動の証拠として見せてはいけません。撮影日時、場所、写っている活動を確認し、肖像権や研究上の機密にも配慮します。写真が用意できない場合は、無関係なイメージ写真を入れるより、データ表、引用、関連資料で情報を補う方が誠実です。

発行後に何を測るか

発行部数や発送数は、どれだけ作って配ったかを示す産出指標です。読まれたか、理解されたかは分かりません。紙媒体では、記事別QRコード、短縮URL、読者調査、イベントでの質問、寄付・問い合わせ時の接触記録を組み合わせます。Webでは、記事閲覧だけでなく、関連ページへの遷移、再訪、資料閲覧、検索語を見ます。

評価段階 確認すること 改善への使い方
到達 優先読者へ届いたか 配布先、配布方法、告知を見直す
閲読 どの記事が読まれたか 企画、見出し、誌面導線を見直す
理解 伝えたかった内容が想起されたか 説明の粒度と証拠を変える
行動 再訪、参加、相談へ進んだか 次の接点と案内を見直す
資産化 授業、採用、報道、営業で再利用されたか 記事単位の保存と検索性を改善する

読者アンケートの回答者は、もともと関心が高い人に偏りやすいため、その結果だけで全読者を代表させません。QRコードの遷移も、紙面を読まずにアクセスした人を含む可能性があります。複数のデータを突き合わせ、分からないことを残したまま仮説として改善します。

廃刊、Web移行、継続をどう判断するか

印刷費が高いからWebへ移す、読者が高齢だから紙を残す、という一条件だけで決めません。優先読者がどこで情報を受け取り、保存・回覧しているか、紙でしか起きていない接触があるか、HTMLで検索・更新できる価値があるかを確認します。紙を減らすなら、PDFを置くだけでなく、記事単位のHTML、既存読者への通知、アーカイブ、アクセシビリティを設計します。

継続する場合も、前年と同じページ数・発行回数を守る必要はありません。年4回の薄い活動報告より、年2回の調査特集と随時更新のWeb記事の方が目的に合う場合があります。反対に、学内の情報共有をWebだけにすると、対象者が重要な更新を見落とすこともあります。形式ではなく、媒体が解くべき課題から決めます。

広報誌を他の接点とつなぐ

広報誌は、大学の教育研究を編集し、読者との関係を深めることができます。ただし、教育の質、研究成果、学生支援そのものを代替できません。記事で魅力的に描いた活動が一部の例にすぎない場合は、その範囲を明示します。取材対象者の満足を、全学生や全地域の評価へ一般化もしません。

また、閲読と寄付、記事と出願の間に関連が見えても、広報誌だけが原因とは判断できません。広告、イベント、卒業生組織、社会情勢など他の接点が重なります。広報誌の評価は、単一媒体の効果証明より、「どの読者のどの判断に役立ち、他の接点とどう連携したか」を確かめる方が現実的です。

媒体単体ではなく大学全体の目的から組み立てる方法は、大学広報の戦略、組織、KPIで解説しています。

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